研究分野紹介

 太陽系には、太陽、惑星、小惑星、衛星、彗星、太陽系外縁天体など多くの天体があります。 最近、太陽系の外にも惑星が数多く見つかり、系外惑星と呼ばれています。太陽系のような、 恒星と惑星などからなる惑星系は、宇宙に普遍的に存在すると考えられます。本研究分野では 惑星系がどのように形成されて、進化していくのかを明らかにすることを目標に、研究を進めています。
(注:「進化」とは、生物の進化と同様に時間とともに姿を変えていくことを表す用語です)

研究方法と内容

 惑星系がどのようにして生まれたのかを解明するためには、いろんな研究手段を用いる必要があります。 本研究室では、物理学やコンピューターを用いた理論的研究、隕石や宇宙塵(ウチュウジン:宇宙から 降ってくる微小な塵)の詳細な観察と分析による実験的研究など、さまざまな方法で研究を進めていま す。これらの方法で研究している教員や学生が互いに議論しあって、どのようにして惑星系が形成され進化するのかを明らかにしようとしています。

 太陽のような恒星や、そのまわりを公転する惑星などの母体は、希薄なガスと塵からなる分子雲です。 分子雲の中で密度が高い部分は分子雲コアと呼ばれています。分子雲コアが重力によって収縮すると、 中心に太陽のような星と、そのまわりを公転する原始惑星系円盤が形成されます。

 本研究分野では、分子雲コアから原始惑星系円盤を経て惑星が生まれる過程を理論モデルや太陽系物質の詳細 な分析などで明らかにすることを目指しています。われわれ惑星系形成進化学の研究室では理論モデルから惑星系の形成を解明しようとする 理論系太陽系物質の詳細な分析から解明しようとする分析系・実験系の3つに分かれ、それぞれのアプローチから惑星系の進化の過程を探求しています。

実験系

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分析系

 モデルを作成しただけでは、それが正しいのかどうかの証拠がありません。 太陽系の初期のできごとの証拠は、地球のような大きな天体には、ほとんど残されていません。 地球は岩石が高温で融けて、重いものが沈み、軽いものが浮かぶということを繰り返してきました 。岩石が融けるとそれまでの情報の大部分が失われてしまいます。 そこで、当研究分野では、小惑星からやってきた隕石や、彗星がまき散らした塵などを精密に分析して、 太陽系初期の情報を探っています。

岡崎の研究

 太陽系物質の起源と進化過程の解明をめざして、地球外物質の元素・同位体分析を行っています。これまでにコンドライト隕石や火星隕石、宇宙塵(直径ミリメートル以下の微粒子)、はやぶさ探査機が持ち帰った微粒子など、様々な物質の分析を行っています。地球などの惑星や小惑星、彗星などを構成している固体物質はそれらが形成した環境や材料物質、その後に経験した出来事を反映した様々な特徴をもっています。それらの特徴をできるだけ多く取得するために、顕微鏡による観察、機器を用いた元素組成分析や同位体質量分析など多岐にわたる分析を行っています。特に「希ガス」専用の高感度質量分析計を用いた地球外物質の分析を主に行っている世界的にも数少ない研究室のひとつです。希ガス同位体からは、物質の起源(太陽系以外の星で出来た粒子なども識別できる)や進化過程(粒子が形成された時期、経験した加熱温度など)を知ることができます。

 当研究室の希ガス質量分析計では隕石や宇宙塵などに含まれる原子数1万個程度の希ガス同位体を検出することができ、はやぶさ試料のような微小試料の分析も可能です。さらに、レーザーを用いた局所ガス抽出および、「レーザー共鳴イオン化+飛行時間型質量分析計」を取り入れた新しい質量分析装置の開発が行っています(右図)。

理論系

 原始惑星系円盤の大部分は、水素やヘリウムなどのガスです。そのなかに少量の岩 石質の物質が微細な塵として浮遊しています。微細な塵が、互いに衝突付着したり、重力で集まったりと いう過程を何度も経て地球のような惑星にまで成長したと考えられています。 当研究分野では微細な塵がどのように集まって、天体ができたのかの理論モデルを構築しています。誕生したばかりの星や原始惑星系円盤は、濃いガスの中に存在するために直接観測することが困難です。そのため当研究分野では、数値シミュレーションを用いて星や原始惑星系円盤の形成や惑星の進化を調べています。

町田の研究

 大規模数値シミュレーションを用いて、「初期宇宙での天体形成」、「星形成」、「惑星形成」、「衛星形成」、「宇宙ジェット」 の研究を行っている。下の図は、数値シミュレーションの結果を示している。左下の図は、原始惑星系円盤中で原始惑星にガスが流入する 様子を表している。この後1万年程度で木星のようなガス惑星へと進化する。右下の図は、分子雲コア中で原始星が誕生して、その周りの円盤中で 原始惑星が誕生している様子を表している。中心の原始星は、この後およそ1千万で太陽のような主系列星へと進化する。 円盤中の原始惑星のいつくかは中心の原始星に落下する。落下しなかった原始惑星が観測されるような惑星へと進化すると考えられる。

 右の図は、宇宙初期に誕生した星(ファーストスター)からジェットが駆動している様子を表している。宇宙初期に形成する ダークマターハロー中でバリオン成分が凝集して中心部分にファーストスターが誕生する。このとき、背景宇宙に僅かでも 磁場が存在するとファーストスターは周囲に円盤作ることなく、磁場によって秒速100km/s以上の速度を持つジェットを駆動する。

 中心の球状の部分が原始ファーストスター。 水色の線は磁力線を表している。緑色の部分がジェットに対応する。 この後、時間と共に中心の星は100太陽質量程度まで成長する。最終的に、中心の星は超新星爆発を起こし、中心に巨大なブラックホールが 誕生すると考えられている。

学生・研究員による最近の研究

連星軌道の時間発展の探求(原田)

 連星の中でもお互いの間の距離が10auを下回るような近接した連星の存在が観測より明らかとなっています。連星の卵は周りにあるガスを食べることで質量を増し成長していくのですが、えさとなるガスが持つ角運動量が大きいと連星の軌道が広がり、近接連星が形成されません。この研究では磁場を考慮した三次元の流体シミュレーションを行うことで、連星周りのガスが持つ角運動量がどの程度抑制され、その結果近接連星が形成されうるかどうかを調べています。
 右上の図はある時点の連星とその周りのガスを横から見たものです。中心の連星から離れる方向へのガスの流れ(アウトフロー)が見られます。右下の図は横軸が連星の質量、縦軸が連星の間の距離を表した結果です。磁場がない場合(黒線)に比べ、磁場がある場合には連星間距離が短くなっていることがわかります。このように、近接した連星の形成には磁場が重要な働きをする可能性があることが示されました。

過去に在籍していた学生・研究員による研究

若い原始星の周りの降着円盤・アウトフロー・ジェット(平野)

 アルマ望遠鏡によって原始星近傍の詳細な構造が観測されるようになりました。その中には既存のモデルでは説明のつかない現象が報告されています。そこで3次元磁気流体シミュレーションを行うことで、若い原始星の周りで起こる現象を調べています。
 右の図はシミュレーションの結果で、原始星の周りの降着円盤(緑)から伸びる磁力線(紫)と、磁気遠心力風によって駆動されたアウトフロー(赤)の様子を表しています。降着円盤とアウトフローは磁場分布によってコントロールされ、観測より報告される複雑な構造がシミュレーション上に再現されました。
 (論文) Hirano & Machida (2018) MNRAS, 485, 4667 [3D view]

ホール効果がもたらす円盤成長の多様性(古賀)

 分子雲コアの重力収縮過程では、磁場が重要な役割を果たすことが分かっています。分子雲コアは弱電離環境であるため、非理想電磁流体力学の効果1つである、ホール効果を考慮する必要があります。ホール効果によって磁力線の構造は変化し、ガスの角運動量分布も変化するため、のちに中心領域に形成される回転で支えられた原始惑星系円盤の大きさが変化します。ホール効果の強さはガス中に存在する固体微粒子(ダスト)のサイズに依存するため、解析モデルを構築して、ダストのサイズの変化がのちに形成される円盤のサイズにどれほどの影響を与えるかを調べています。
 右図は解析モデルを用いた計算結果で、横軸が中心星質量(時間進化とほぼ同義)、縦軸がダストのサイズに応じて求めた円盤の半径です。色の違いが設定したダストサイズの違いを表しています。ダストサイズというμmの違いが、ホール効果によって数10auもの円盤の大きさの違いを生むことを明らかにしました。
 (論文) koga et al. (2019) MNRAS, 484, 2119

近接連星形成とアウトフロー/ジェット駆動の関係性について(佐伯)

 宇宙に存在する星の大半は連星として存在しています。また、単独で存在している星も、生まれた時は多重星系のメンバーであった可能性があり、星が形成される過程を理解するためには、連星や多重星の形成過程を調べなければなりません。特に近接した連星は、重力波を放出するような連星ブラックホールの起源やIa型超新星を起こす天体の起源である可能性が示唆されています。 近年では、比較的近接した原始星連星(連星の赤ちゃん)からジェットやアウトフローが駆動している様子が観測されようになりました。ジェットやアウトフローの駆動には磁場が重要な役割を果たすと考えられています。また、磁場は連星間距離を小さくする働きがあるという報告もあります。そこで、3次元非理想磁気流体シミュレーションを使用し、ジェットやアウトフローの駆動が近接連星の形成過程においてどのような影響を及ぼすのかを調べています。
 右図はシミュレーション結果で、上図は連星(赤)からジェット(細く絞られ構造:青)と星周円盤(黄色)からアウトフロー(低速で開口角が広い分子流:緑)が駆動している様子を表しています。磁力線(水色)は原始星の自転により、星の近くでは捲き上げるように捻られています。周連星円盤はオレンジ色で表しています。下図(上)は横軸が時間進化、縦軸が原始星(水色)、周連星円盤(オレンジ)、1km/s以上のアウトフロー/ジェット(赤)の質量と連星間距離(黒破線)を表しています。下図(下)は横軸が時間進化、縦軸がアウトフローとジェットの速度ごとの質量を表しています。この結果から、連星が形成されるている間に、低速のアウトフローはと高速のジェットが駆動することを明らかにしました。
 (論文)Saiki & Machida (2020) ApJL, 897, L22, 【アニメーションはこちら